『アニメがお仕事!』(石田敦子;少年画報社)

うつむくな バカ
上向きゃ風は吹きます

石田敦子さんのホームページ
http://www008.upp.so-net.ne.jp/Ishida-A/index.html

最近、べた惚れできる作品ってなかったなあ、とこの本を読みながら感じます。久々に「好きっ!」って言いふらしたい作品です。
タイトルの通り、アニメ制作にかかわる若者たちの青春群像物です。じわじわと押し込むようにしんどさが迫り、いつのまにか嘘のなかに巻き込まれている自分に気づく、そんな日常で、理想を捨てないこと、自分を裏切らないこと。アニメ界に限らず、働くこと全般に通じるところがあります。そして、アニメという世界だからなおさらのこと、作り手の理想と現実とのギャップがヴィヴィッドに映し出されるという点はあるかもしれません。アニメは二次元に描かれた人物を、線を動かして、そこに魂を見出すものです。あるべきものをそこに見出そうとする志向性が要請される、このようなアニメの性質は、理想追求の姿勢と重なる気がします。
さて実は、九郎太が本作品を読み始めたのはまだ最近のことで、この夏、掲載誌「ヤングキングアワーズ」を手に取ったのがきっかけでした。アワーズはもう三年以上購入していなかったのですが、石田さんの描く力強いタッチの人物はもともと好きで、彼女の構図の取り方の上手さにあらためて引き込まれました。田舎の尾道でくすぶっている先輩の回でしたが、田舎落ちしてきた自分はひとしお感情移入してしまいました。
感情移入といえば、そのあとコミックスを全部(最新刊五巻)買ってきて読んでみましたが、アニメ制作も出版編集も、中小会社の実情は似ているみたいで、流しの編集さんから、仕事の真髄を教わったり、締め切り間近の殺伐さや妙な高揚感、倒産間際のどたばた人間模様とか、ほんとに表情からして、そのままずばり、リアルそのもので、もだえ転がりました。
あとコミックスを買って初めてイチ乃が主人公って知ったんですが(それまではイチ乃の兄弟の二太が主人公だと思っていた)、ほわほわーっとしたうぶなイチ乃が五冊の間に、めきめき成長していくのは、たぶんこの本の一番の面白さでしょう。女の子が悔し涙を流すシーンがたっぷりあるのも、九郎太的にはツボで、落ち込んでしまいそうになっている人に、ぜひお勧めです。